朝。
目を覚ましたい時間にセットした時計と携帯。
その二つの目覚ましが同時に、僕に起床時間だと訴える。
それに気付いた僕は速やかに止めねばならない。
何故なら少しでももたつけば、結構耳敏くて神経質な同居人の耳にまで音が届いて、『安眠を妨害した』と難癖をつけられて散々罵倒されたり、詰られたり、扱き下ろされたりするからだ。
同じ所に住んでいるんだから、相手の生活音が聞こえてくるのは仕ない事なのに。
少しくらい我慢してくれたって良いと思う。
でも、僕はそれを言って同居人に逆らおうとは思わない。
機嫌が悪くなると、彼女はとても喧しいし、僕につっかかってくるようになるから面倒くさい。
あんな風に僕に絡んでくる人間は初めてだ。
僕がむかっとして我慢できなくなるのも初めてだ。
すごくむかつく。
だけど。僕が何かを言い返した時の怒ってるアスカは、気付いてないのかもしれないけど、すごくムキになって、とても子供っぽい事まで言って来てたりする。
そんなときのアスカは、ほっぺたが真っ赤に染まってて、鼻の穴がひくひくしてて、眉が吊り上がってて、青い瞳をきらきらさせてる。
いつもそうだとは限らないけど、そんなアスカをちょっと可愛いと思っちゃう事もある。
基本的にアスカはすごく憎たらしいのに。
でも、明るくて、さっぱりしてて、憎めない。
本当に怒ってる時のアスカは嫌いかもしれないけど。
だって、僕を憎んでるみたいな目をするから。
ちっとも可愛いとも思わなくて、不思議と僕もすごくアスカを鬱陶しいと思う。
今までの僕は、そんな風に自分が感じている気持ちを意識した事も無かったし、突き詰めて考えた事もなかった。そして、それはこれからもするつもりもなかった。
だって、そんな事するだけ無駄だし。
僕なんかを好きになってくれる人なんていないのに、僕が何を思うかを考えたって仕方がないよ。
それに、誰かを好きになっちゃって、その人に期待して、裏切られたりするのも嫌だ。
だから、もしも僕が誰かを好きになるなら、いつでも僕に優しくしてくれる、とても優しい人だけを好きになりたいと思ってた。
だけど、現実って、そんなに優しくないみたい。
わがままで、神経質で、うるさくて、プライド高くて、すぐ大きい事言うくせに、けっこう抜けてて失敗する。
でも、言った事は必ず実現させる時もあるし、その為にどんな努力も惜しまず、すごく頑張る。
結構可愛くて、ミサトさんや綾波よりはちょっと胸が小さいけど、足が白くてすらっとしてて綺麗だ。
そして、加持さんの事が好き。
僕の事は好きじゃない。それは知ってる。
知ってたけど。
知ってたから好きにならなかったのに。
なのに。
僕は今、アスカに期待してる。
アスカが僕を好きだったらいいなって思ってる。
アスカなんかわがままばっかりで、僕になんかちっとも優しくないのに。
何で、こんな事になっちゃったのかな?
僕は目の前で朝から朝食のおかずを巡ってミサトさんと騒いでいるアスカをちらりと盗み見て、気づかれないようにこっそり溜め息を吐いた。
半年前。
僕の誕生日があった。
ここに来るまでは、誕生日は虚しくなる日だった。
だから、僕は誰にも自分の誕生日を教えなかった。
今年の僕の誕生日は、ここでの平凡な日常道り、アスカの我がままに振り回されて、誰からも祝われず、アスカの買い物の荷物持ちにされて、ほんの少し落胆しながら終わった。
終わったはずだった。
変な事があったのは、僕の誕生日の次の日。
前々から予定されていたテストの為に僕は1日ネルフでエヴァに乗っていた。
けれども、機械のトラブルが相次いで、結局、一番重要なテストを終えずに僕は解放された。
もう夜も遅かったけど、まだリニアが動いていたから僕は家に帰る事にした。
なんとなく、がっかりした気分で、リニアの駅のホームで、僕はベンチに座っていた。
僕を家族だって言ってくれたミサトさんなら、僕の誕生日に何かしてくれるかもしれないって期待してたのかもしれない。
それだけじゃなくて、ネルフにいる人達は僕の誕生日を知ってるはずだった。
もちろん、父さんも。
だけど、誕生日だった昨日も、1日中ネルフにいた今日も。
僕は誰にも何もされず、何を言われる事もなく。僕は、心底自分の馬鹿さ加減に呆れていた。
僕の事を気にしてくれる人なんかいないって知ってたはずなのにって。
だから、自分から誕生日の事も、誰にも話さなかったのに、って。
とても冷めた気持ちで、帰るのがすごく意味がない事の気がして、リニアがホームに着いても、ミサトさんの家に帰る気になれなくて座っていた。
結局、僕はそのまま三本のリニアを見送った。
次のリニアが最終かなと考えて、いい加減そろそろ次のリニアで帰ろうって思った時。
ホームに到着した上りのリニアから降りて来た人に僕は驚いた。リニアから降りてきたのはアスカだった。
アスカもすぐに僕に気付いて驚いていた。
僕は、アスカがこんな夜遅くにこんな所に何をしに来たのかすごく気になった。
だって、もう0時近かったんだ。
アスカみたいな女の子が出歩くような時間じゃないよ。
でも、アスカに質問しながら、僕は何となく、テストが中断した僕の代わりにネルフに呼ばれたのかもしれないと思って納得した。
だけど、そうじゃなかったみたいだった。
何故だか分からないけど、アスカは不機嫌で、僕を荷物持ちにして、そのまま帰りのリニアを待ち始めた。
僕にとってはすごく気になる行動だった。
だって、アスカの行動だけ見ると、わざわざ僕を荷物持ちにする為だけにこんな夜中にリニアに乗って、ここまで来たって事になるんだよ?
それとも他に用事があってここまで来て、僕を荷物持ちに出来たから、気が変わって帰る事にしたんだろうか。
とにかく、アスカの行動は謎過ぎて、僕にはよく分からなかった。
持たされた荷物もすごく気になる。
何種類ものコンビニの袋。
何を考えてアスカはこんなにいっぱい色んなコンビニで買い物したんだろう。
それとも、アスカがした買物じゃないんだろうか?
気になって仕方なくて、色んな質問をしたくて仕様がなかった。
勇気を出して僕はアスカに問いかけようとしたけども、逆に何で僕がリニアの駅に居るのかを問いただされた。
僕が、『いつから』をぬかして僕がここに居る理由を言うと、それでもう満足したのか、アスカはリラックスした表情でリニアを待ち始めた。
だけど僕はそれどころじゃない。
だって、僕の疑問は何一つ解明されてないのに増えて行くんだもの。
勝手な事すると怒られるから確認できないけど、コンビニの袋からうっすらと透けて見える感じや冷やっとする温度とかで、アスカに持たされたのはデザートっぽい事が分かる。
こんな夜中に、色んなコンビニで大量のデザートを買う理由って、何…?
そもそも、これ、これから食べるの?
アスカが?
ちょっとでも太ると僕に当たって大騒ぎするくせに???
それともこれからどこかにこのデザート持って行くの?
それなら、ネルフがあるこの駅まで来た意味は???
もっと良く分からないのは、アスカは結局その日、そのまま大量のコンビニの袋を僕に持たせたまま、僕と一緒にミサトさんの家まで帰ったってことなんだ。
しかも、アスカの行動はミサトさんに内緒の行動だったみたい。
仁王立ちして玄関で待ってたミサトさんに怒られてた。
でも、僕の手にあるコンビニの袋が、アスカに持たされた物だって知った途端。
まじまじとアスカを見つめて、ミサトさんの説教がぴたりと止まった。
アスカも珍しく大人しくミサトさんの説教を聞いていたのに、じっとミサトさんに見つめられるともう寝ろとミサトさんを寝室に追い立て始めた。
真っ赤な顔のアスカと騒ぎながら、ミサトさんが振り返りざま僕に『お誕生日おめでとう』と言ってくれたけど、知ってる人に初めてお祝いの言葉をかけてもらったのに、僕はちっとも感動しなかったのは何でだったんだろう。僕の誕生日のお祝いの言葉の事なんか、すごくどうでも良い雰囲気だったんだよね、その時。
ミサトさんは逆上しかけたアスカを宥めてるのかからかってるのか分からないことばかりしてたし、アスカは喧しく騒ぎ立ててる最中だったんだもん。
そう言えば思い出したって感じで言われてもね…。
言葉って、雰囲気が大事なんだなってしみじみと思う一幕だった。
ミサトさんを部屋に押し込める事に成功したアスカに、僕はコンビニの袋を返そうと思った。
でも、受け取って貰えなかったんだ。
返そうとすると物凄い顔で睨んでくるし。自分はいらないから、僕が食べれば?
とか、訳が分からないことまで言い出してた。
アスカが買った物じゃなかったの???
そんな疑問だらけの僕に、アスカは不満そうに寝るって宣言して。
アスカはさっさと自分の部屋に籠もってしまった。
残された僕は、とりあえずコンビニの袋に詰められたケーキを冷蔵庫に入れることにしたんだ。
そうして、ケーキを移しながら、はたと気付いた。
今日は僕の誕生日じゃないけど、ミサトさんから誕生日を祝われた。
アスカからはケーキを押し付けられた。
不意にアスカの変な行動が一本に繋がって、僕は衝撃を受けた。
もしかしたら。
もしかしたらだけど。
ミサトさんがアスカに昨日が僕の誕生日だったって事を漏らしたとしたら?
そして、それを聞いたアスカが、僕に誕生日のケーキだけでも届けようとしたら?
僕はその思い付きに真っ赤になって胸がいっぱいになった。
何種類ものコンビニのケーキ。
誕生日の丸いケーキには遠く及ばないけど。
でも。
たくさんあるコンビニのケーキのひとつひとつに、アスカの気持ちがすっごく詰まってる気がして、僕は震えた。きっと、アスカは僕の誕生日を祝いにネルフまで祝いに来てくれたんだ。
僕は堪えきれなくなって、ケーキを冷蔵庫にしまって、アスカの部屋の前に移動た。
そして、アスカの部屋の襖の前に立ち尽くして逡巡した。
でも、それが、全部僕の勘違いだったとしたら…?
そんな考えが僕の頭にこびり付いて離れなくて、僕はその日、結局何も出来なかった。
だけど、次の日の朝。
勇気を出してアスカに言ってみたんだ。
実は、6月6日は僕の誕生日だったって事。
まるでそれを待ち構えてたみたいにアスカは、それならお祝いしなきゃとかなんとか言いながら、ミサトさんを叩き起こして、朝っぱらから僕の誕生祝いを開始させた。
曰く、『たまたまケーキがここにこんなにあるからよ!』らしい。
真っ赤な顔でそう言うアスカは可愛かった。
胸が熱くなって、苦しくて、でも嬉しくて仕方なかった。
ほんの少しアスカの見方が変わって、何か予感めいた物を僕は感じた。
はずだったのに。
次の日には、アスカはいつも道りの、横暴で、僕の迷惑を顧みない子だった。
一週間経っても、二週間経っても、アスカは何も変わらなかった。
なのに、僕だけが少しだけ変わってしまっている。
気付くと、アスカを視線で追いかけてしまう。
僕はアスカを気にしていた。
だけど、それで、僕は何をどうすれば良いのか。
そんな事ばかりを考えて、気が付くと半年も経ってしまっていた。
ミサトさんとアスカのじゃれ合いを横目に、なんとなくカレンダーに目を移す。
12月7日。
本当に、あの日からちょうど半年後。
不意に、アスカから貰ったケーキの事が思い出されて、いい加減うるさくなってきたミサトさんさんとアスカの仲裁の為に、思い付いた事を口に出してみた。
「そ、そういえばさ!!」
「何よシンジ!後にしなさいよ!今忙しいの!この女、許さないんだから!」
「別にちょっとくらい良いじゃな〜い。対した事ないんでしょう?」
「うるさいわね!何でアタシのを取るのよ!シンジのを取ればいいじゃない!」
「そんな事したらシンちゃんが可哀想じゃないの〜」
「なんですってぇ!?アタシは可哀想じゃないって訳!?あったまきた!!」
僕がかけた声は見事にスルーされそうで、少し凹んだけども、気を取り直してさっきよりも少し大きな声で言ってみた。
「アスカの誕生日っていつなのかな!!!!」
その途端、水を打ったようにしん、と静まり返った台所に、僕は酷く居心地が悪くなってきた。
何か、悪い事でもしたのかな、僕。
ミサトさんが驚いた表情で僕とアスカを見比べ始める。
アスカは、不思議な表情をしていた。口をぱくぱくさせて、驚いているのか、なんなのか、僕を凝視していた。
「アスカ、あんた、シンちゃんに教えてなかったの?」
呆れたようなミサトさんの言葉に、アスカが真っ赤になって怒鳴りつけた。
「うるさいわね!黙りなさいよ!!」
「はいはい。お姉さんは黙ってますよ〜。ねえ、シンちゃん、どうしてそんな事今聞くの?」
ぎゃんぎゃんとミサトさんに噛みつくアスカを適当にあしらい、ミサトさんが僕に質問してきた。
ミサトさんの目は優しく僕を見つめている。
良く分からないけど、お母さんってこんな目をしたりするのかな。
そんな事を思いながら、僕は今更思い付いた理由を話し始めてみた。
「あの、カレンダーをみたら、今日ってちょうど僕の誕生日から半年後で」
「うんうん」
ミサトさんが面白そうに僕の話に食い付いてきた。
「アスカとミサトさんが僕の誕生日を祝ってくれて嬉しかったのを思い出して」
「それで?」
嬉々とするミサトさんとは対称的に、なぜかアスカが挙動不審になっていく。
「べ、別にアタシの誕生日なんてむぐっ!?」
「いいから!それでシンちゃん、どうしたの?」
「ふむ!?むぐぐぐ!!」
ミサトさんが途中で口を挟もうとしたアスカの口を、テーブルから身を乗り出して押さえつけながら僕に続きを促した。
「あの、でも…」
「続きは!?」
正直、ミサトさんに押さえつけられて、テーブルの上でもがいているアスカの方が気になるんだけど、催促された僕は続きを話した。
「僕もアスカの誕生日を祝ってあげたいなって思い付いて…」
だけど、話終えた途端、僕は物凄く恥ずかしくなって来てしまった。
何で、今なんだろう。
もっと違う方法もあったし、きっとネルフで調べればすぐに分かった。
それに何よりアスカに直接聞いてみればよかったんだ。
アスカの誕生日っていつなの?って。
なのに、よりによって、こんな時に、こんなタイミングで。
僕は自分が取り返しのつかない失敗を仕出かしてしまって、ここから消えてなくなりたかった。
だけど、そんな訳にはいかないのは分かっている。
その証拠に僕の顔には血が登ってきて、熱い。
どうしようもなくて、僕は赤らんだ顔を隠すためにいつも道り俯いていた。
「なんだって。アスカ」
すると、ミサトさんの呆れたような、笑っているような声がアスカに向けてかけられた。
その言葉にアスカの反応が気になった僕は、アスカの様子を窺ってみた。
アスカは、ミサトさんから解放されて、ふてくされた表情で、バツが悪そうに視線を泳がせていた。
ほんのりと頬を赤らめて。
視線を落としてぶすくれた表情になるのは、アスカが照れてる時の癖。
それを知ってた僕は、少し嬉しくなる。
アスカは、僕の提案を嫌だとは思ってないみたいだ。
ほっとして、アスカが照れてるのが可愛くて嬉しい。
喜んでくれたのかな。
そんな風に僕は甘い気持ちに浸っていたのに。
「別に。どうだっていいでしょ、アタシの誕生日なんて」
アスカは赤らんだ不機嫌そうな顔のまま、僕から視線を逸らして、床を見据えて、そう、言い放った。
その言葉に、僕の浮ついた気持ちは地に叩き付けられる。
今の言葉は、どういう事?
不安と嫌な予感が僕の頭を駆け巡る。
それを理解するのが恐ろしくて、僕の身体は硬直してしまっていた。
ミサトさんが眉をしかめてアスカを窘めるようにアスカの名前を呼んだ。
「アスカ?」
「何よ!」
挑むようにミサトさんを睨みつけるアスカの頬はまだ少し赤みがかっていた。
「そんな言い方、ないんじゃない?シンちゃんがせっかくアスカの為に…」
「別に頼んだ覚えなんてないわ!」
アスカはずっと赤い顔でミサトさんを睨み付けて、僕の事は一度も見てくれない。
だんだん、僕はいたたまれなくなっていく。
やっぱり、僕なんかがアスカに何かしてみてあげたいって考え自体、間違ってたのかもしれない。
「大した事ないじゃない、誕生日なんて!それにシンジだって、自分の誕生日が2日も過ぎるまでアタシに隠してたじゃない!何でアタシだけ、先に自分から教えてやらなきゃならないのよ!」
だけど僕はそう叫んだアスカの一言に、一つ何か勘違いしていた事に気付いた。
勘違いしていた事が何か、までは把握出来なかったけど。
「え?」
「へ?」
思わず漏れた、僕とミサトさんの疑問符を最後に、キッチンに、沈黙が降りる。
ミサトさんは目をまん丸にしてアスカを見つめ、固まっていた。
アスカは、真っ赤な顔で、これ以上ないくらい不機嫌そうな顔を作って、一生懸命そっぽを向いている。
そして、僕は混乱していた。
どうしよう。
アスカの言葉の意味は分かるのに、アスカが何を言ってるのかが理解出来ない。
僕がアスカに、自分の誕生日を隠してたから、アスカの誕生日を教えてくれない?
何だろう。
何か微妙に変な気がする。
こう、もやもやして、何だか気持ち悪い。
それに、僕、アスカに僕の誕生日を隠してなんて…。
「あああああああ!?」
アスカの言っている半年前の一連の事に思い当たった僕は、すっとんきょうな声を上げてしまった。
それをきっかけに、ミサトさんも動き始めてしまったようだった。
いつの間にか俯きながら、ぷるぷると震えている。
けれど、限界が来たらしい。
「ぷっ、くっ、ふふっ、ははっ、あははははははは!」
ばんばんと机を叩きながら大笑いし始める。
「ミサト!!何がおかしいのよ!!!!」
アスカが今度は怒って真っ赤なまま、ミサトさんに噛みつく。
「だって、だって、アスカ!」
ミサトさんはよっぽどツボに入ったらしく、笑い転げている。
アスカの視線が鋭くなって行くのに僕は気付いていたけれど、何からどうアスカに話せば良いのか分からず、ただ成り行きに任せてしまっていた。
「アスカっ!アスカったら!もしかして、シンちゃんが誕生日を黙ってた事、ずっと根に持って拗ねてたの?半年も経つのに?」
息も絶え絶えの状態でミサトさんが指摘した。
その途端、アスカが爆発した。
「な!な、な、なんでアタシがそんな事根に持って拗ねなきゃなんないのよ!コイツの誕生日なんかどうでも良いわよ!何よ!誕生日なんてたかが1歳年が増える日なだけじゃない、ミサトみたいに!拘るほうがおかしいわよ!祝っても祝わなくても年は増えるんだから!!!!!明日が楽しみね!不愉快だわ!アタシもう寝る!!!!」
怒った顔で真っ赤になって、ミサトさんにそう吐き捨てると、アスカは自分の部屋に駆け込んで行ってしまった。笑い転げていたミサトさんはアスカのその言葉にひくっと痙攣して、笑顔を貼り付けたまま、また固まった。
そして、僕は。
「えっと、その…」
顔が熱くて、穴があったら入りたくなっていた。
さっきのアスカの言葉が頭を埋め尽くしていて、訳もなくアスカと話した かった。
本当だったら、すぐにアスカを追いかけて行きたかったのだけど。
でも。
何となく、ミサトさんがいる前ではそれをしたくなかった。
だけど、気持ちは早くアスカを追いかけたくて、落ち着かない。
そんな僕に、ミサトさんは溜め息混じりに苦笑した。
「ねえ、シンジ君。アスカの誕生日はね、12月4日よ」
「えぇっ、12月4日って、一昨日じゃないですか!」
と、不意に、一昨日、荷物持ちと称してアスカの買い物に一日中引っ張り回された事を思い出した。
それだけじゃない。
おとといは何だかんだと難癖をつけて、アスカは僕にお昼を奢らせたんだ。
その上、一つだけだけど、すごく気に入ったっていう小物を、無理やり僕に買わせた。
あの時は、すごく不愉快で腹立たしく感じたけれど。
だけど、あの時の理不尽さが、今ではすごく大きな疑問に変わった。
あれは、もしかして、僕からアスカへの誕生日プレゼントのつもりだったのかな?
そう思いついた僕は、もう、黙って此処には居られなかった。
一刻も早くアスカの元へ行って。
そして、思いついたことを問いただして。
そして、誕生日おめでとうと言ってあげたかった。
「あ、あの、ミサトさん?」
我慢できずに声をかけると、ミサトさんはニヤニヤと面白そうに僕を見ていた。
「なぁにぃ?」
ちょっと悔しい気もするけれど、仕方ない。
僕は我慢出来なかった。
「後で洗いますから、後片付けお願いして良いですか?」
切羽詰った僕の言葉に、ミサトさんが優しく笑う。
「良いわよ。今日は私が洗って置いてあげるわ」
「あ、ありがとうございます!」
思いがけない申し出に僕は感謝した。
慌てて席を立った僕に、ミサトさんがこう言った。
「シンジ君、アスカに負けちゃだめよ?」
いたずらっぽそうにウインクしてきたミサトさんに、見透かされたバツの悪さを感じながら、僕はアスカの部屋へと向かって行った。
誕生日、おめでとうと言うために。
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